私の掌の歴史(1)

<そしてPilot>

1997年も明けていたのですが、その時にはもう一部マニアの間で知られ始めていたらしく、しばらく店内にいると数人の人がその電子手帳についての説明を店員に求め、買って帰る人も居ました。
機械そのものにも、置いてある広告にも日本語は見あたらず、英語圏の機械だという事は判ったのですが、どうも日本語化されているらしい、と店員の説明を端から聞いて把握しました。
Newtonも国内のソフトハウスが日本語化キットを発売していたので、それに近いことを行っているだろうということは想像できたのです。

なんかもう離れて話だけ聞いていたのでは我慢できなくなり、その時同じ様な表情で店員を伺っていた人と一緒に実際に動作などを見せてもらうことにしました。
画面の解像度はそれほど高くは無いのですが、9ポイント位の文字を表示して読むことは十分可能。アプリケーションの切り替わりも割と早く、動作上のストレスは小さい様です。
問題の日本語については、表示に関してはアプリケーションやシステムの表示は英語のままでしたが、メモや予定表の中で日本語を使用するのは問題なし。入力もサブウインドウが表示されて、その中にローマ字で入力した物を単語変換していくといった感じです。
実際の文字入力は液晶画面下の入力フィールドに手書きで入れるのですが、アルファベットを簡略化したような記号で、しかしそれなりな速度で入力することが出来るようです。文字と数字の入力フィールドが分かれているのも文字認識を簡略化するためであり、それこそ書きなぐる様な書き込みが可能だったのです。
何より入力記号が簡単なために、私のような悪筆でも誤認識がほとんど無かったのが嬉しかったものです。
次に気になったのはバッテリですが、単4電池を2本使ってほぼひと月使用が可能とのこと。
さらにデータのバックアップに関しては標準で付属するケーブルを使えばPC上のデータと同期が可能、しかもアプリケーションの追加も可能だと言われ、実際に後からインストールしたアプリケーションが動くのを見させてもらいました。
ケーブルに関しては実際はPC用のRS-232cコネクタであり、Macで繋ぐためには変換コネクタを購入しないといけないのですが、それも数千円と安いものでした。


自分が電子手帳の条件として考えていた物が、ほぼ実現された形でいきなり目の前に出てきたのです。これは本当に驚きましたね。
さすがに輸入物であるから、値段はそれなりに高かったし。

ちゃんと悩みましたよ。しばらくの間。
買うかどうかではなく、その金額出せるかどうかについてですが。
不満になりそうな点はないし、この先もっと自分に合う物が出てくるとも思えなかったので、ほとんど心は決まっていましたけど。

買うのは良いとして、次にどのモデルを買うかという選択がありました。
Pilotは搭載メモリによって、1000と5000の2モデルあったのです。
1000のメモリが128kB、5000が512kBと、今聞いたら冗談としか思えない搭載メモリですが。
それでも英語でアドレスや予定、メモを使うにはあまり問題にはならないメモリ量だったのです。
当時出ていたアプリも10kBや20kBくらいでしたし。

しかし日本語化を行うためには、そのためのプログラム、漢字フォント、辞書などが必要なため、どうしても100kB位のメモリが必要になります。
そうするとさすがにPilot1000では厳しい。最低ラインがPilot5000になるのですが、別売りのオプションで1MBのメモリカードが売られていたのです。
Pilotのメモリは、システムの入ったROMとRAMチップが一緒になったカードで、追加ではなく完全に差し替えになります。
また、1000と5000ではメモリ量が違うだけで、性能などは一緒。
PCを使っていて、"とにかくメモリは沢山積め"とか"どれだけメモリがあっても必ず足りなくなる"などの金言(?)を学んだ者としては、最終的にメモリを増やすのは自明だったので、Pilot1000にオプションのメモリカードという選択枝になるのに時間はかかりませんでした。

が、残念ながらその場では在庫が切れていて購入することは出来ませんでした。
とりあえず予約をして待つことに。
一週間くらい待って、ようやく手にすることができました。

とりあえず最初に使ってみた感想は、
"手のひらサイズのMacじゃない。"って。
メニューの構成、メニューの項目にコマンドストロークが対応していたり、アイコンの作りや画面解像度、そして何より"使う側に配慮したインターフェイス"が昔のMacそのものに感じました。

私自身がMacを使い続けていたせいもあるのでしょうが。

ともかくもさほど違和感無く使うことができたのです。
文字入力は別にして。